今、衛生推進者が自ら講師となって続々と、
校内研修を開催しています。
校内研修実践 プレゼン例(〇〇中学校)
校内研修用プレゼンテーション(X小の実践例)
皆さん,お疲れ様です。
「労働安全衛生」の研修をさっそく始めたいと思います。
事前のアンケートによると,法律的なところ,基本的なところを知りたいという要望がありましたので,その辺のところを限られた時間ですが話をしていきたいと思います。
今日の内容は,こんな感じです。質疑応答まで行けたらいいんですけどね。
ところで,私が参加した衛生推進者資格の養成講習会というのは,丸々一日朝から晩までみっちりでした。
いろいろな業種から来ています。金融,小売り,病院,サービス…。みんな真剣そのものです。だって,ひとたび労災を起こせば業務停止処分,入札不可となって,死活問題ですからね。
でも,その1日の講習を受けたから全部わかるかというと,そうでもない。うわっつらだけですね。今日は60分しかありません。ですから,とうてい労安の全部を伝えることは不可能です。
労安法は規則を含めると1000条を超える法令です。
どれだけ説明できるか不安ですが,とにかく行けるところまで行きたいと思います。
まず,労安法が学校に適用になった背景から話をします。
これは,公務災害の件数の推移です。
ちょっと数字が古いですが、適用当時の地方公務員災害補償基金からのデータです。
公務災害というのは,あとでまたやりますけど,仕事をしていてケガ,病気,障害,死亡したということです。
この表を見て,何か気が付きませんか?
ちなみに,教職員は約100万人,地方公務員全体の数は約300万人です。つまり教職員の割合は約3分の1です。
まず,教職員100万人ですから,およそ100人に1人が公務災害になっていることがわかります。
さらに,教職員の公務災害の割合はあまり減っていないことがわかります。
ほかの公務員にはどんな職種があるかというと,警察,消防,運輸,海員,医療,電気・水道・ガス,清掃と結構危険な職種が含まれています。
教職員は日中,ほとんど部屋の中の仕事ですね。子どもがいますから,基本,安全なはずなんです。ところが先ほどの仕事は,外仕事です。昼夜を問わない。リスクに差があることを割り引いて考えると,教職員の割合は意外と高いことになりませんか?
これは,文科省のデータです。毎年,新聞にも発表があります。
これは一目瞭然ですね。右肩あがりです。
グラフをよく見ると,この増加分は精神疾患を表していることがわかります。
鹿児島県も同じ傾向です。7~8割が精神疾患です。
ここでも,教職員全体からみると100人に1人が病気休職になっている割合です。つまり,さきほどの公務災害とはほとんど重なりはありませんから,100人に2人が,公務災害や病気休職になっていることになります。
もちろんそれ以外に,公務災害に認定されなかった人や申請そのものをしなかった人もこれらの数字に表れていませんから,相当に増えるはずです。
これも文科省の調査です。
数年前,文科省が全国の学校を抽出して勤務時間実態調査をしました。
結果は,小学校では月に月45時間の超過勤務がありました。
同時に,「疲労度調査」もしているんです。
一般企業と比べてみてください。教員は「とても疲れる」が圧倒的に多いですね。約半数が「とても疲れる」という。異常ですね。
「疲労」の一番の原因は,時間配分のアンバランスと言われています。「ワーク・ライフ・バランス」です。
ちなみに「ワーク・ライフ・バランス」というのは,「仕事と私生活」のバランスのことです。「仕事生活」のバランスではありません。
長時間労働や疲労が,増加する一方の病気休職や精神疾患と密接に「関連性がある」と誰しも気付くのではないでしょうか。
さて,まとめです。
途中,途中で退屈しないように「まとめ」をしていきます。みなさん,集中していてください。(笑)
「減らない○○○○」とはなんでしょうか?
はい,「公務災害」ですね。
もう一つ,「増大する休職者と」?
そう,「精神疾患」ですね。
ここで,安全と衛生の意味について説明しておきます。
「労働安全衛生」と言います。
「安全」とは,事故,ケガ,災害,危険,有害からの安全という意味です。まあ,普通にわかりますね。
ところが,「衛生」というのは,「清潔」の意味にとる人が多いですが,ちょっと違います。衛生イコール「健康」のことです。
衛生というのは,生を衛(まもる)と書きます。病気をしないという意味なんです。
ですから,労働安全衛生とは,労働を原因として,ケガや病気をしないという意味になります。
では,いよいよ条文に入ります。
労安法第1条。一番大事なことが凝縮されています。
読んだことのある人いらっしゃいますか?
…。(シーン)
ないですよね。(汗)
この法律は労働基準法と「相まって」とあります。
「相まって」というのは「一緒になって」という意味です。
労働災害防止のために「いろいろ」やります。図を見た方がわかりやすいので,次に行きます。
最終的な目標は「労働者の安全と健康」,もう一つは「快適な職場環境」です。
なぜ労基法と「相まって」でしょうか?
労安法は,いわば「ハード」です。職場環境整備の意味が強い。一方で,労基法は「ソフト」です。
いくら職場環境がよくなっても,労基法で定められた勤務時間や休憩,休暇などが守られなかったら,安全・健康・快適な職場にはならないですよね。
だから,「労基法と一緒になって」と言っているんです。
それから,「快適」の意味です。
職場環境は,暑くない・寒くない・危険ではない,でおしまいではありません。
疲労・ストレス,やりがい,人間関係などメンタル面が含まれますし,
業績等評価や賃金なども快適に影響すると考えられます。
ところで,快適だと何がいいのでしょうか?
快適だと職務能率が上がります。
仕事の質が向上するということです。
だから,一流企業も一生懸命,取り組んでいます。
そもそも労安法の根拠は憲法25条の生存権にあります。「相まって」を歴史的に見てみます。
労安法は1972年に制定されました。では,それまで無かったのかと言うと,それまでは労働基準法の一部としてあったんです。
労基法は1947年制定です。日本史で習ったように,戦前は「女工哀史」のような労働時間14~15時間が当たり前の時代です。勤務時間の制限なんてありません。それが戦後,8時間労働になった。画期的な法律だったんです。
でも,どうしてその後独立したかというと,1960年代から,高度経済成長,技術革新の中にあって,労働災害,職業病が多発したんですね。
炭鉱事故とか,大災害も起こりました。そうなると,労基法の中の一部の条文ではもう間に合わなくなってきた。それで,ちゃんとしたそれ専門の法律を作ったんです。
ですから,労基法と労安法は親子みたいなもんです。その証拠に「罰則」というDNAはちゃんと受け継がれています。
では,学校と労安法の関係を見ていきます。
労安法が本格的に学校に適用されたのは,2000年頃です。
鹿児島では2001年。労安法制定から30年かかりました。それまで当時の文部省は,旧学校保健法で十分対応できると言ってきたんです。
今の学校保健安全法の条文を見てみましょう。
職員については「健康」のみ書かれていますね。具体的には「健康診断」のことです。
ところで,健康診断で「異常なし」は,果たして健康なのでしょうか?
例えば,腰痛などの持病はここに表れません。健康診断の限界がそこにあります。さっきの労安法と見比べて,学保法には職員の「安全」も「快適」も入っていないんです。
それでは,最初に見た現状,つまり病休とか公務災害の実態に即していないことになります。学校の先生たちだけ,労安法の適用をしないのはおかしいという声に押されて,ようやく適用されたわけです。
最近の文科省の見解です。
「学校教育の成否」は「労働環境」に懸っているとまで言っています。
教育条件というのは備品や設備だけではありません。最大の教育条件は,子どもたちの目の前にいる教職員です。
それまでは,「子どものためなら,先生たちは何でもしなさい」と言ってきたのに,近頃は「子どものために,もうちょっと先生たちを守らにゃいかん」に変わってきたのです。隔世の感ですね。
さらに,事業者である教育委員会は「安全哲学を持て」「もっとしっかりやれ」と言っています。
では,まとめです。
労安法の目標は,第一義的には,職員の健康・安全,「快適」な職場ですね。
もう一つは,その結果として?
はい,「学校教育」の質の向上です。
文科省の通知にこの言葉通り「学校教育の質の向上」と出てきます。
ここから,そのほかの労安法をもう少し詳しく見ていきます。
全部は見れませんよ。ポイントです。
先ほど,労安法は労基法のDNAを受け継いだと言いました。ですから,性格もそっくりです。
はじめに「強行法規」。反対は任意法規と言います。
強行法規というのは,当事者間で中身を変えることができません。世の中の契約事は,基本的に当事者間の合意で成立します。
例えば、ある品物を百円で売ります。百円なら買います。という合意の仕組みです。こういうのを「契約自由の原則」と言います。
強行法規はこれを認めません。たとえば,校長と相談して「私は健康診断を受けません」「いいですよ」と当事者間でお互い納得したら,それでよさそうなものですよね。
でも,それは無効になります。違反すると校長に刑事罰が下ります。「勝手なことは許しませんよ」ということです。
2番目に「最低基準」です。それを下回ったらいけない,ということです。
逆に,上回るのは一向に構いません。むしろ,努力して上回らなくてはならないと書いてあります。
例えば,衛生委員会を置くのは労安法上,労働者50人以上の職場です。
うちは40人ですから足らないです。足らないけど置くのは一向に構いません。
市の規則にも置くように書いてあります。
逆に,いったん置いたのに,50人以下なんだから置かなくてもいいんだ,とはなりません。「この基準を理由として条件を低下させること」は違反になります。というのは,この法律の性格が労働者保護の法律だからです。
3番目は「事業者責任」です。先ほど「責任体制の明確化」とありました。
災害が起こった場合の責任は事業者が取るということです。
労基法では「使用者(校長)」を使いますが,労安法では「事業者」を使います。
どう違うかというと,事業者というのは大本の責任者で,教育委員会のことを指します。
以前は,労働災害が発生した際に,現場監督に責任を押し付けて本社は責任逃ればっかりしていました。
ですから,労安法制定時に事業者の責任を明確にしたんです。
労働者は使い捨てではありません。
生涯にわたって元気で,家族も安心できる職場にすることが事業者の社会的責任です。
もちろん,使用者にも安全配慮義務はありますから,免罪はされません。
もう一つ,「自己責任」にもしません。すべて自己責任なら,労安法は不要になってしまいます。不注意には不注意の理由があります。
人間はエラーをする生き物であるという前提から労安法は発想しています。
4つ目に「労働者の協力」です。
職員の安全と健康,快適な職場の実現には,事業者や衛生委員会の活動だけでは不可能です。
先日,教頭から工事のお知らせがありました。「どこどこで工事がありますから,注意してください」ということでした。これらを守ることが協力です。難しいことではありません。
主人公である職員自身が自覚をして,労災防止措置に納得できたら,協力することがどうしても不可欠なのです。いくらすばらしい労安計画を立てても,職員がバラバラに自分勝手に動いていてはその実現は不可能です。
5番目に「労使対等」です。職場の安全衛生は勤務条件です。
勤務条件は基本的に労使対等の交渉事項です。そもそも,安全や健康・命に上下関係や多数決,妥協は馴染まないはずです。
職員が「危険だ」と言い,校長は「いいや危険ではない」などということは,あまりあり得ない話です。よく話し合えば方向性は必ず一致するはずなのです。
労使対等の担保として,衛生委員会の人数配分が管理職側と職員側が同数になります。うちは,管理職二人で,職員側より少ないですが構いません。労働者保護が本来の趣旨ですから。
最後に「取締規程」です。これは,罰則のところで説明します。
ここまでの話,皆さん,ついてこれてますかね?
…楽しいでしょう,法律は。(笑)
法律の少し基本的な部分に触れておきます。
まずは「法治国家」。
日本は法治国家です。憲法には書いてないけど,誰が見ても法治国家。外国からもそう思われています。独裁国家ではない。
すると,公務員は当然ながら,法令遵守義務があります。地公法第32条です。
道交法だけ守ればよいというものではないですよね。公務員が守らなきゃ誰も守らない。国が乱れます。だから率先して守ります。
次に,「形式的効力の原理」。
法令の上下関係です。憲法に反する法律は作れません。違憲かどうかの争いは時々ありますが。同じようにどんどん下りてきます。
訓令は市教委が作ります。市の管理規程も法律に違反することは当然できません。もし,もし違反とかしていたらどうなるか。その部分は無効になって,上位の規定が優先されます。
例えば,市の規程では第1条の趣旨に,「職員の安全・健康」は書いてあるんですが,「快適な職場」とは書いてありません。どちらが優先するでしょうか。
一番身近な市の規程のようにも思いますが,実は法律です。大関と序の口が相撲を取ってるようなものですから。
3つ目に「法の不知」。
法の不知というのは法律の存在を知らないで,自分の行為が法律上許されていると誤信することです。簡単に言うと,法律を知らなかったとしても,責任逃れはできません,ということになります。
たとえば,今,麻薬犯罪が多いですね。
麻薬を所持していたら犯罪です。たとえ,実際に麻薬取締法を知らなくて,「そんな法律なんか知らない」と言っても通用しない話ですよね。知っていようがいまいが関係ない。それと同じです。
労安法を知らない,そんな通知は下りていない,と言っても現に存在すれば,それで世の中は動いているのです。だから,法令周知は大切なのです。
罰則に入ります。
世の中にはたくさんの法律がありますが,その法律に違反して,刑罰まで科すかどうかというのは,その法律を決める際の非常に重要な問題です。
罰金とか懲役とか,刑罰を科すということは,違反の内容が非常に悪質で,反社会的な場合です。つまり,労安法違反は犯罪行為という位置づけなのです。
ちなみにこれを取り締まるのは,労働基準監督署です。監督署の署は警察署の署と同じです。逮捕する権限もあります。ただ,地方公務員の場合は,人事委員会というところがやります。
ここには,「申告不利益扱い」というのがあります。
労安法違反があったときは,職員から人事委員会に内部告発ができます。「措置要求」と言います。でも,これをしたばっかりに不利益な扱い,つまり仕返しみたいなことをされたら,誰も怖くてできなくなります。その仕返しを禁止しているということです。
「法令等の周知」というのは,方法まできちんと定められています。
選択肢は書面交付,掲示,電磁的方法(つまり校内LANみたいな閲覧方法)の3つだけです。口頭,回覧はNGです。
では,学校での取り組みに入ります。
まず,衛生委員会は校務分掌ではありません。
校務分掌は学校教育法に根拠がありますが,衛生委員会は労安法に根拠があります。ですから,他の校内委員会とは違います。
だから,本来は校務分掌組織図にも載らないんです。
内容も毎月1回以上開催とか,衛生推進者を決めたら14日以内に周知をするとか,話し合った内容を職員会議に報告するとか,いろいろ細かいルールもあります。
衛生委員会の審議事項です。これらは代表的なものです。これが全てではありません。
とても,覚えられません。ですから、職員の「安全」「健康」「快適」に関するものすべて,と思っても問題ありません。
具体的な活動内容です。大きく分けて4つあります。具体例を見ましょう。そちらの方がわかりやすいです。
「作業環境」
昨年度,職員便所,今年度は更衣室を作りました。まだ課題だらけです。
「照度」というのもあります。明るさ300ルクスだけではありません。まぶしさもあります。
例えば,○○室から見えるビニルハウスは,午前中まぶしいんです。昼からの安全点検ではわからないところです。早速カーテンを購入してもらいました。と,いう風に一件落着です。
「作業管理」
これは,長時間労働対策など,これも課題は多いですね。
「健康管理」では,これから増えるのが面接指導でしょう。
「安全管理」は,事故・災害の予防です。
ところで,労安の世界では「災害」と「事故」は違います。死傷者があるのが「災害」,ないのが「事故」と呼んでいます。
例えば,建設現場のクレーン車が倒れました。死傷者があれば「災害」,なければ「事故」です。
保護具というのは,学校でいえば,マスクやゴム手袋,理科実験のゴーグル,運動会のときの耳栓なんかです。
基準の例です。本当は規則(事務所衛生基準規則を含む)に700条くらいありますが,全部知る必要はありません。
学校職場に必要なところを拾い読みすれば十分です。
「気流」というのは,職員室でエアコンから,特定して・継続して・直接に,3年部あたりに風が来ます。おそらく秒速0.5mを超えているでしょう。配慮しなくてはならない状態です。
「通路」は通り路(みち)と書きます。廊下というのは本来,通路以外の役目はありません。建築基準法でいうと2m幅だったかな?何もないのをいいことに物が置かれます。人の流れが変わって,転倒や衝突につながります。
「大掃除」
この学校は大掃除がないですよね。時数削減でカットされたんでしょうか?本来は日常の掃除以外に,年2回は必要とされています。
「昆虫」
通常はゴキブリやハエでのことでしょうけど,前の学校では,ムカデとかマムシの退治もありましたよ。(驚)
「VDT」
ビジュアル・ディスプレイ・ターミナルと読みます。つまり,パソコン作業です。VDT症候群というのもあるくらいです。基準は1時間ごとに休憩を入れるというのが厚労省のガイドラインです。
「危ない」とか,「不快」な場面や環境というのは,必ず基準があります。
ですから,その時は労安法に立ち返って条文を探して読んでみるとよいです。改善の拠りどころができます。
では,ちょっと気分転換で,理科の問題です。
実験中です。
どこが危険でしょうか?考えてみてください。
そうですね。いろいろ出ました。
「燃えさし入れ」みたいに,あるべきものが「ここにない」ことも危険に入りますよね。
理科の授業というのは,実験がつき物で,危険と隣り合わせです。
そして,実験は子どもたちの日常です。そこにはいくつもの事故の危険が潜んでいます。
そう考えると,私たちの仕事も,ふだん何気なく過ごしていますが,危険や落とし穴は結構ありそうです。
それを,事前に予知するトレーニングをKYTと言います。鹿児島よみうりテレビではありませんよ。(笑)
ヒヤリとしたとか,ハッとした,とかという危ない目にあったということを共有することは,当事者だけでなく今後は気を付けることにつながります。
KYTは,1970年代に,住友金属がやりだして今や全国に広がりました。
先日の職員アンケートで,ヒヤリハット事例というのがありましたが,事前に危険を共有化することで災害を減らせることになります。
災害事故を未然に防ぐために,もう少し科学的に進めます。
ハインリッヒの法則という有名な法則があります。
1920年代ですから,今から百年ぐらい前のアメリカの保険会社に勤めていたハインリッヒさんという名前に由来しています。
保険屋というのは確率で商売をしています。1つの重大災害の背後には,29の軽微な災害があり,その背後には300のヒヤリハットが存在する,という法則です。
例えば,廊下が濡れているのが「不安全状態」,廊下を走るのは「不安全行動」です。そのうち300回転びそうになって「ヒヤリ」としたら,29回は滑って転んで腰を打つ「軽微な災害」が起こり,そして1回は転んだ時に腰の骨を折る「重大災害」になるという確率です。
注目すべきは,すべて原因は同じであるのに,結果が違うという点です。この違いは何でしょうか。それは時の運なんだそうです。つまり,災害をなくそうと思ったら,「ヒヤリハット」の段階を減らせばよいですよね。300という数字を減らせば,29も1も限りなく減っていくことになります,理論上は。
ですから,ヒヤリハットを事前に共有化します。
これが安全の先取りになりそうです。今後は,皆さんからヒヤリハット事例を募集していきたいと思います。どんな小さなヒヤリでも構いません。恥ずかしがらずに。それらをまとめて,事前に目を通しておけば,こんな時にはこんな危ないことがあるんだ,ということで前もって災害を予防できるようになります。
まとめますよ。
労安の取り組みには4つの分野がありました。
労安成功のキーワードは,事業者「責任」と労働者の「協力」です。
危険,不快は労安法に基準があります。
最後は公務災害です。
公務災害の定義は,ここにある通りです。
「請求主義」ですから,自分で補償を請求しなくては,お金はおりません。
「認定基準」は,負傷の場合,公務遂行性の有無で判断します。
公務遂行性があれば,公務起因性もあることになります。
負傷の場合は,「直接の」管理下になくても,公務遂行中といえるものがあります。例えば,「割り当てられた職務遂行」です。何月何日にという業務命令でなくても,担当は年度当初決められていますから,校長がやめろと言わない限り公務災害になります。
例えば,私は校長から卒業式のプランターの花作りを年度当初割り当てられました。ある日,それを運んでいる最中,足を溝に突っ込んで骨折してしまいました。校長に特別にこの日にしなさいとは言われていませんが,公務であることには間違いないですよね。公務災害です。そのほかにも,「準備」「後始末」「出張」「職務遂行に対する怨恨」なども含まれます。
疾病の場合,公務起因性の有無が重要になります。学校で倒れたらすべて公務災害かというとそうはならない。つまり,疾病との因果関係が問題になります。心臓,脳疾患の場合,公務による負荷が急激に悪化させて発症したか,ということが問われます。
通勤災害は,経路の逸脱・中断は認められません。でも,日用品など,日常生活上必要・やむを得ず・最小限であれば,逸脱からまた戻れば,通勤災害となります。次のページの方がわかりやすいでしょう。
上から順番に見ていきます。
学校と住居を寄り道をせず往復するのは,もちろん問題ありません。
転勤した時,最初に通勤手当支給のための経路図を出したと思います。原則はそれです。
でも,やむを得ず経路を離れる場合があります。
例えば,保育園とかです。図でいうと,実線の矢印はふだんの経路で,また元の経路に復帰すれば戻った時点から通勤災害になります。ただし,点線部分は通勤災害には該当しないので注意が必要です。
保育園以外にも認定された例として,食料品・薬品・衣料品・文房具・書籍などの購入やクリーニング,理髪店,病院,公共料金の支払いなども認められています。
でも,パチンコは日常生活上必要とはいえませんから,逸脱から舞い戻ってきても,認定されません。寄り道せず,まっすぐに帰ることです。(笑)
また,時々通勤方法を変える人もいます。でも,例えば,出水から体を鍛えるためだからといって,その日は自転車で何時間もかけてやってくるなどというのは,合理的な方法とは認められないようです。
では,公務災害の方がどうして良いのか,という点です。この表を見たら,一目瞭然ですね。
まず基本,けがや病気で働けなくなったら一番心配するのは身分や給料や治療費です。これらは原則全部補償されます。事業者責任ですから。
障害が残ったり,死亡した場合でも年金はかなり違います。この金額は,私の給料や家族構成などを考慮して算出した概算です。大変な計算でした。(笑)
これだけだと,わかりにくいのですが,自分はあと30年生きるとします。障害年金は1億5000万と4000万の違いになり,差額は1億円以上あります。これは大きいですね。特に,小さな子どもさんなんかがいれば,どれだけ残してやれるかが勝負です。家族が露頭に迷うことになりかねません。
この公務外になるリスクをできるだけ小さくする方法があります。それは,勤務時間外に仕事をしないことです。(笑)
では,最後に演習しましょう。公務災害に認定されそうなのは,どれでしょうか。
① トイレに行くこと自体は職務ではありません。でも,職務を行う際,生理的に必要となる行動です。職務遂行上,不可欠な行為だから,公務災害です。
だったら休憩時間なら駄目かというと,実はこれも公務災害になります。トイレにいくのは,生理現象ですから,自分で時間を選べません。休憩時間だからとか,空き時間だからとか,時間を選んで行く人もいないはずです。
② 休憩時間は公務と離れて自由に利用できるはずです。公務遂行性がありません。例外として,学級レクレーションなどで生徒管理が必要なら考慮の余地もあるでしょう。
③ 授業の準備や後始末は勤務時間外でも,職務に付随する行為として,公務遂行性があります。公務災害です。
④ 本来の職務ではありません。主催者が教育委員会だとしてもです。
⑤ 暴行の原因が,かつての生活指導の逆恨みのような場合は指導の延長として認められる余地があるようです。職務との関連性があります。卒業生にとっては,街で会っても先生なんです。でも,「殴れるもんなら殴ってみろ」みたいな相手への挑発行為は私的怨恨で認められません。
⑥ 任意団体で,参加する・しないは本人の自由意思です。
⑦ 修学旅行は当然,公務です。出張命令が出ています。例えば,ホテルで午前3時に階段から転落した場合はどうでしょうか。勤務時間は,1日目の8時15分から2日目の16時45分までの全行程です。
ですから,夜中であろうと勤務時間になります。いわゆる「手待ち時間」です。特に何をするわけでもないけど,そこにいて,いざというときに備えているわけですから,消防職員みたいな勤務です。
⑧ ⑨と比較します。⑨は基本的になる可能性が大きいです。公務起因性があると思われます。でも,それを証明するものは,何かあるでしょうか。みなさんにはありますよ。「勤務時間調査」です。いざという時のために,自分の身を守る役割もしているんです。
でも,⑧は勤務時間中に「風邪をひきました」みたいなことで,⑨とは明らかに違います。
⑩ 通勤は決まった経路を通常は往復します。この場合は途中,逸脱しています。でも,日常生活上やむを得ない最小限の行為であれば,ふたたび元に戻った場合は,そこから通勤とみなされました。
公務災害になるかならないかは,地方公務員災害補償基金が決めます。だから,ここで扱ったのは,過去の認定例をもとにしました。これらは,ほんの一例で,奥が深いです。時には裁判にもなります。ケースバイケースですから,実態が違えばまた別の結果になるかもしれません。
最後のまとめです。
もうわかりますね。
どうせなら?はい。「公務」災害です。
残念ながら,質問時間がとれませんでした。
早口の説明で,よく分からなかったかもしれません。いつでも,質問してください。またの機会があればと思います。
大切なのは「法を守ること」ではありません。皆さんの「いのちと健康を守ること」です。人に優しい職場を作っていきましょう。そのために,本日の労安研修が少しでもお役に立てばと思います。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)