●「労働基準法と相まつて」
法1条の中に、「労働基準法と相まつて」とありました。
「労基法と一体となって」という意味です。
では、労基法にはどんなふうに書いてあるかと言いますと、次のようになっています。
【労基法1条 労働条件の原則】 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。 【労基法42条 安全及び衛生】 労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法の定めるところによる。 |
労基法には他にも、強制労働の禁止・中間搾取の禁止・賠償予定の禁止・前借金相殺の禁止・強制貯金の禁止・解雇制限・解雇の予告など、今日の私たちから見ると当たり前過ぎることも多く定められています。
どうしてこんなことまで?と疑問に思いますが、これらは労基法制定前の労働者が置かれていた厳しい労働環境の裏返しで、これらの犠牲の上に労基法が成立(1947年)したとも言えます。
このように、労基法はその歴史的背景から“労働者の財産”とでも言えるものですが、労基法1条で「人たるに値する生活」を保障しながら、わざわざ42条で「労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法による」と「たらい回し」にしているのは、一体なぜでしょうか。
実は戦後まもなく制定された労基法には、もともと第5章に「安全及び衛生」に関する規定は立派にありました。
しかしその後、1950~60年代あたりからの技術革新や高度経済成長、機械設備の大型化、複雑な労使関係などによって労働災害や職業病が頻発し、労基法による規制が困難になったのです。
そこで新たに「第5章 安全及び衛生」の部分だけを労基法から独立させ、充実させてできたのが安衛法(1972年)だったわけです。
しかしながら安衛法が労基法から分離独立したといっても、「労働者の安全・衛生」「快適な職場環境」を確保するためには、労基法に定める賃金、労働時間、休日など基本的な労働条件が確保されることは不可欠ですから、わざわざ安衛法は「労基法と相まつて」としたのです。
したがって、別の法律になっているから安衛法は労基法より低いレベルの法律だと思われがちなのですが、そのようなことは全くありません。
安衛法はきめ細かい規制をするために新たに法律をつくったのであって、そのルーツはあくまでも労基法にあります。
ですから、安衛法は労基法の一部なのであって、その法的性格も受け継がれています。