4.労働時間調査の活用
A小では「時間外業務記録表」と言っていますが、名称も内容も学校ごとに異なっているようです。
この問題は後ほど触れることにして、このうち、「過重な長時間労働」を防止するために、労働時間調査をどう活かすことができるのかを考えてみます。
ここで登場するのが「法的三段論法」と言われる考え方で、『弁護士の論理的な会話術』(谷原誠著・あさ出版,2010)を参考にしました。
●法的三段論法
実際の裁判などでも用いられる思考過程で、法規・規範という大前提に、事実という小前提をあてはめ、結論を導く三段論法のことを言います。
例えば、
▶ 大前提…そもそも、人を殺した者は殺人罪として刑に処せられるべきである。(刑法199条)
▶ 小前提…ところで、Aは人を殺した。
▶ 結 論…だとするならば、Aは殺人罪として刑に処せられるべきである。
これを使えば、超勤問題も次のような論理展開が可能になります。
(ア)大前提…そもそも、勤務時間は「法令」で決まっていて、私たちには法令遵守義務がある。(労基法・地公法)
(イ)小前提…ところで、実際には慢性的に超勤が多く、勤務時間が守られていない。(具体的事実・労働時間調査の結果・「データ」)
(ウ)結 論…だとするならば、今の勤務内容を見直していかなくてはならない(「人を増やす」ではない)。(法律効果・「説得」)
(ア)の大前提は、労基法、勤務条例、地方公務員法、給特法等で何十年も前から施行されている法令ですから、すでに反論の余地はありません。
最初に誰もが認める法規やルールを掲げることで、簡単に大前提を認めさせることができます。
次に、(イ)の具体的事実を立証できれば、相手も結論を否定できなくなります。
では、勤務時間が守られていないという事実はどこにあるのでしょうか。
事実といっても、この場合、だれもが認める事実です。
それこそ、裁判所も認定するようなものでなくてはなりません。
それさえあれば、(ウ)の結論は必然なのです。
ところで、これまで「あなたは、1ヵ月に何時間超勤しましたか?」
「多忙化というけれど、あなたの学校は以前と比べてどれだけ忙しくなったのですか?」と聞かれたら、あなたは答えられていたでしょうか。
これまでも「猫の手も借りたい」「目が回る」等、多忙であることはみんなわかっていても、「はたしてどれだけ忙しいのか」と聞かれるとまったく第三者に説明できませんでした。
本人さえ知りませんから、事業者や労働組合も知るはずがありません。
これまで私たちは、自分の労働(残業)時間さえ知らない、労働者としては実に珍しい「労働者」だったのです。