●自己申告制は例外措置
ここで注意すべきは、始業・終業時刻の確認及び記録の「原則的な方法」は、
①使用者の現認か、
②タイムカード等の客観的な記録のいずれかであるという点です。
多くの学校で現在採用されている「自己申告制」はあくまで例外的な方法なのです。
なぜでしょうか。
自己申告制で問題となったケースとして、過労によるうつ病が原因となって自殺した労働者が「過労自殺」と認定された電通事件(最高裁判決2000.3.24)があります。
同社は当時、自己申告により労働時間を把握していましたが、それによると自殺前の9ヶ月間の1日平均の残業時間は約3時間30分でした。
しかし、実際に社内にいた時間と比べると、社内で頻繁に徹夜をしているなど、大きな差がみられました。
裁判所は、この差の時間も基本的には業務の遂行に充てられていたと判断したのです。
このように、労働時間を労働者の自己申告制にし、実際の労働時間とはかけ離れた労働時間を会社が把握していても、労働者の過労防止には役立ちません。
同社では、労働時間の把握を正確に行わず、長時間労働を見過ごした結果、多大な損害賠償(1億6,800万円)をも支払う羽目になりました。
自己申告制が安易に用いられると、その運用が種々の要因から適正に行われないため、労働時間が過少申告されることにもなりかねないのです。
このため厚労省では、労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があるとしているのです。